黒田書房

不定期で小説を投稿していきます。少しでも楽しんでもらえれば何よりです。

小説

話せないおしゃべりと無口なおしゃべりー1

人と話すことが大好きだった。どんなに他愛のないことでも、話をしているだけで楽しかった。 「それで坂本さんがね――」 クラスの友達の美沙と、いつもどおりの会話。少し前から不便になったけど、私も美沙も、もう慣れていた。 話の区切りがついたところで、…

思い出百景―7(完結)

「駿ちゃん、一緒に帰ろう」 卒業式が終わった後、クラスで最後の時間。各々が名残惜しそうに帰りだした頃、亮子と香介が僕のもとにやってきた。 なんで来たんだよ。一人で帰ろうと思っていたのに。そんなことが真っ先に頭をよぎった。この頃の僕は、二人に…

思い出百景ー6

僕が亮子に告白してから数日が経った。香介には、僕が振られたことは話している。振られたと、それだけしか話していない。亮子も香介のことが好きだとか、そういうことまでは話してはいけないと思った。僕の口から伝えることじゃない。というのは建前で、よ…

思い出百景―5

「僕は亮子が好きなんだ」 高校最後の冬休み、二人で話をしようと、香介を公園に呼び出した。香介は驚きながらも楽しそうに笑っている。 「何がそんなに可笑しいのさ?」 ごめんごめんと言いながら、香介が俺も話があると言い出した。 「俺もさ、亮子が好き…

思い出百景―4

亮子が告白されて数日、僕は雪姉に呼び出されて休日だというのに学校の校門前まで来ていた。僕が到着してから数週間後、雪姉がやってくる。 「おまたせ」 少し息を切らした雪姉に今来たところだからというと、デートの待ち合わせみたいだねと笑い飛ばされた…

思い出百景―3

「駿はこっち出てから何年くらい?」 「大学に入る時だから七年だね」 管理人さんにした話を、今度は雪姉にもする。今日はきっと会う人全員にこの話をすることになるだろう。 「そうかー。七年も経ったのか、早いね」 そりゃ私も結婚するかと楽しそうに笑う…

思い出百景―2

「ねえ、駿ちゃん結婚って知ってる?」 あれは小学校低学年くらいの頃。近所の公園で遊んでいた時の事。 「結婚?」 「知らねーのか! 駿はだせーな」 亮子の急な質問に頭に疑問符を浮かべていた。この頃の僕は結婚どころか恋愛なんて存在すら知らなかった。…

思い出百景―1

「ねえ、知ってる?」 あの頃の僕たちは、ずっと信じていた。 「鍵を借りなくても屋上に行く方法」 そんなことはあるはずもないのに。 「本当に行くの? やめようよ」 「大丈夫。ばれないって」 だけどその時の僕らにとって、一緒にいることが当たり前で、一…